1-2. 欧州LCCの歴史

ヨーロッパLCC業界の歴史と現状を簡単にまとめておきます。
興味のない方は1-3.欧州LCCの特徴にお進み下さい。

1990年代~イギリス

欧州のLCCブームは、イギリスから火が付きました。
イギリス人の南欧への旅行需要に目を付けたライアンエア、イージージェットなどのLCCが、イギリス~南欧各地に路線を設け、激安運賃で提供しはじめました。そこに、安価な旅行を求めていたワーキングクラスや若者の旅行者が一気に流れ込み、大成功を収めました。
これに危機感を覚えたBritish Airwaysが、Go-FlyというLCCを自ら設立し、新興のLCC潰しにかかり、新旧入り乱れてのLCC戦争がロンドンを中心に巻き起こりました。

ライアンエアとイージージェット
 

一方、大陸側ではまだLCCの波は起こっておらず、比較的落ち着いた状態でした。唯一、ベルギーに設立されたLCC、ヴァージン・エクスプレスが積極的に広告を打って路線網を拡大していましたが、あくまで例外的な存在でした。

2000年代前半~大陸でのLCC戦争

欧州域内での規制緩和に伴い、いよいよLCCブームが大陸にも飛び火し、ライアンエア、イージージェットが欧州各地に路線を広げ始めました。一方で、各国でもドイツでエア・ベルリン、イタリアでボラーレ、東欧でスカイ・ヨーロッパなどLCCが設立され、本格的なLCCブームが到来しました。
それに対し、イギリスに続き、国営イベリア航空やスカンジナビア航空などが自らLCCを立ち上げて、新興LCC潰しを本格化させました。それで潰されてしまうLCCもいる一方、逆にヴァージン・エクスプレスが国営サベナ・ベルギー航空に追い込みを掛け、最終的に経営破綻させるという事件も発生し、まさに「仁義なき戦い」の様相を呈していました。
また、当時のイギリスのブレア首相が南仏への休暇のためライアンエアを使ったり、ルフトハンザがライアンエアに訴訟を起こしたりと、一般社会でもLCCのプレゼンスが大きくなってきた時代でした。

2000年代後半~波乱の時代

雨後のタケノコのごとく増えたLCCも、大手航空会社の値下げや、財務体質の弱さから次々と経営破綻、または合併を余儀なくされました。上記で挙げたLCCでも、ボラーレとスカイ・ヨーロッパはとっくの昔に経営破綻、エア・ベルリンも債務超過が続き、息絶え絶えの状態です。
余談ですが、当時ボラーレは「第2のイージージェット」と呼ばれ、スカイ・ヨーロッパは斬新なビジネスモデルで日経新聞やWBSで取り上げられるほど飛ぶ鳥を落とす勢いでしたが、あっけなく経営破綻してしまいました。
逆に、ルフトハンザやKLMは、自らのウェブサイトで短距離路線のチケットを格安で提供し始め、高い利便性と合わせて、LCCから再度乗客を奪い始めました。このため、中小のLCCにとっては受難の時代となった訳ですが、その一方、ライアンエア、イージージェットは、良好な財務体質をベースに、欧州内に拠点空港を作りまくり、フライト数を一気に増加させていき、「2強」体制が確立されることとなりました。

現在

ざっくりまとめると、こんな感じでしょうか。

・ライアンエア、イージージェットの2強が圧倒的な勝ち組
・既存のLCCは手堅いビジネスに注力(ブエリングなど一部の例外除く)
・大手航空会社が自らLCCを持ち、短距離路線を丸ごとLCCに移管する例が増加(ルフトハンザ・・・Germanwings、AF-KLM・・・Transavia)

2012年までにヨーロッパでは116社のLCCが設立されましたが、2013年に現存しているのはたったの37社です。つまり、7割近いLCCが消滅したことになります。
近年は新規設立が減る一方、2013年のWindjetの倒産など、まだまだ経営が安定していないLCCが多いのが実態です。欧州の景気が引き続き悪い中で、ライアンエア、イージージェットに続いて安静成長期に入れるLCCが現れるのか、今後とも目が離せません。
そのような財務基盤の弱さも含め、欧州のLCC固有の特徴については、3) 欧州LCCの特徴にまとめていますので、ご覧ください。